QOLという言葉について
トレーニングとパーソナルトレーナーとしての経験
私は20年近くトレーニングを本気で続けています。2022年には一念発起し、パーソナルトレーナーの資格を取得しました。数十人を超える受講生の中で奇跡的に合格し、受かったのはたった3名という狭き門を無事に通過した後、本業のサラリーマンを続けながらも、順調にクライアントを獲得しています。
7ヶ月という短い勉強期間中は、まさにメンタルが限界になるほど死に物狂いで勉強していました。そんな最中に出会った言葉が『QOL(Quality of Life)』です。直訳すると『人生の質』という意味ですが、この言葉と出会った瞬間、私は良い言葉だと感じると同時に、妙な違和感も覚えました。
QOLとの出会いと違和感
『クライアントのQOLを上げる』のもパーソナルトレーナーの重要な仕事の一つであると言われています。しかし、QOLという言葉を知った瞬間から、私は現在のQOLを「もしかしたらそこまで悪くないかもしれないが、これから上げていかなければならないもの」として捉えるようになりました。知らなければ意識しなかったことを、QOLを知ることで無意識にスタート地点として低く設定し、「これから向上させるべきもの」と認識するようになったのです。

結論から言うと、QOLとは、その言葉を知らずに、もしくは意識せずに既に幸せだった場合、もはや知る必要のない言葉です。QOLを意識した時点で、かえってQOLが下がる人もいるでしょう。人生の質は受け止め方次第であり、歯が痛いだけでもQOLは下がりますし、太っているというコンプレックスも同様です。
経験と知識の相対性
人間は元来アナログ的な存在ですが、フレームワークやロジックツリーなどを駆使してデジタル的に物事を区別・細分化し、思考や感情の再現性を高めようとする奇特な生き物です。自己啓発は、このような方法で思考や感情のコントロールを目的としています。
例えば、他人と自分を比較し、自分の劣っている部分を認識した途端に「不幸」だと感じることがあります。これもQOLの下落です。ビジネスマンは、こうした状況に陥ると、家に帰ってからロジックツリーを作り、「どうすればあいつに勝てるのか、蹴落とせるのか」「次に会った時は見下してやる」といった思考に没頭するかもしれません。しかし、これではQOLは絶対に上がらないと考えるのが一般的な見解かもしれません。
しかし、視点を変えてみると、そのビジネスマンは戦略を立てることに希望を見出し、脳からドーパミンやアドレナリンが分泌され、幸福感を感じているかもしれません。結局のところ、幸せの感じ方は人それぞれです。
攻殻機動隊の話と経験の解釈
以前、攻殻機動隊が大好きな仲間4~5人で酒を飲みながらこんな話をしたことを思い出します。
「昔NHKの教育番組で10代の男女グループがディベートをする番組があって、その中のとある男の子がこんな議題を投げかけていました。『例えば、日光東照宮に行ったことがないけど、物凄く日光東照宮のことを勉強して、物凄い量の知識を得続けたら、それは日光東照宮に行ったことになるよね?』と。いや、これはただ『物凄く日光東照宮の勉強をした』だけであって、『日光東照宮には行ってない』よね。」

この話に対して、その場の友人は「いや、その人が本気で『行った』と思ったら、それは行ったことになるんだよ」と反論しました。彼は、攻殻機動隊の電脳の話も持ち出し、経験や幸せは個人の尺度であり、その人が勉強し尽くして実際に行ったと言う経験になれば、それは「行った」ことになると主張したのです。

当時の私は、国や一般的な道徳心から植え付けられた「幸せの雛形」を信じていただけだったと今は考えられるようになりました。
幸せの形とQOLの理解
別の話では、記憶は作られ、歪められることもあるという点についても触れたいと思います。例えば、1974年のロフタスとパーマーの実験や2005年のマーティン・コンウェイの実験が有名です。これらの実験は、他者の情報や環境によって、個人の記憶が歪むことがあることを示しています。
何度も言いますが、幸せの形は人それぞれであり、育ってきた家庭環境や友人関係によって大きく変わります。その人の幸せはその人だけにしか分からないものであり、他人がどうこう言うものではありません。
実際に物事を勉強し「知る」ことは大切ですが、反面、頭が良くなることでネガティブな側面も見えてきます。「QOL」という新しい単語を知るタイミングも重要であり、明らかに人生の質が上向きの時にこそ知るべき言葉なのではないでしょうか。
リタイアを目前にした人に対して「QOLを上げていきましょう」と言うのは、場合によっては空気を読めていない発言かもしれないと考えるようになりました。私自身、クライアントには目標を達成して卒業という成功体験を得た上で「QOL」を意識することを勧めています。
結論と問いかけ
私にとって「QOL」という言葉は、「あなたの人生の質はどうですか?」と問われているようで、少しお節介に感じることがあります。
皆さんは「QOL」という言葉を聞いて、今のあなたの「QOL」は下がりますか?上がりますか?それとも全く問題はないでしょうか?

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